kanaco
2025-07-19 00:02:09
8446文字
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【門+虎部下】門番くんがオトモダチを見つけたようです

3少信...というよりは4少仲良し。4少箱推しの門番くんがお友達を見つけるまでのお話。四信、十二信、洛信、先輩門の匂わせを勝手に感じるのみで成立CPは無しです。なお、カッコイイ門番くんはいません。

廟街の架勢堂のボスよりお使いに出され、慣れない九龍城砦にやってきた“青年”はその迷路のような構造に見事に迷っていた。

本当は若頭が九龍城砦への届け物を持って行くはずだった。しかし元気よく架勢堂を飛び出した彼の上司・十二少は見事にモノを忘れていったので、新入りの青年に白羽の矢が立ったのだ。つまりただ届け物をするだけだ。すぐに終わると思っていた。ところが砦の入り口にいた龍捲風の部下に声をかけると「それは信一兄貴に渡してくれ」と言われてしまい、中に放り込まれたのが運の尽きだった。

(ここで藍信一を探す?)

そびえ立つ高い建物を見上げて絶望する。

信一がいる場所の”当て”について、入口の男はルートを教えてくれた。その通りに進んだつもりであったがすぐに正解の道が分からなくなる。出会った住民に居場所を聞けばあっちだこっちだとたらい回しになり、もはや現在地がどこかさえ分からない。知り合いに会えれば話が早かったかもしれない。しかし虎兄貴の部下になってまだ半年である青年は、自分のボスの義兄弟のシマの人間に対して伝手がほとんど無かった。

気がつけば3階のバルコニーに出ていた。もはや泣きそうになっていた青年に光明が差す。彼が知っている数少ない人物が、そのバルコニーから下を覗き込んでいたのだ。

九龍城砦で門番をしている姿が頻繁に見られる、黒い服装に身を包んだ高身長の若い青年。20才になったばかりの青年と年齢が近そうだった。涼し気な瞳と端正な顔がやけに目を惹くような美丈夫だが、愛想はそれほど良い方ではない。悪いというわけではないが独特の間と感性を持つ人物で、近い言葉を探せば“不思議ちゃん”といえばいいだろうか。

彼もまだ九龍城砦のシマに入って1年ほどの新人だった。十二に連れられて若者が初めて砦を訪れた時「新人同士だな、仲良くしろよ」と言って紹介された。入ったばかりであることと、元々ケンカごとには明るくはない性分につき稽古をつけてもらっている最中で、背の高さや視力の良さを見込まれ今は入口付近での偵察を主に担っているという。名前は教えてもらってない。だから青年は彼を「門番」と呼んでいた。

「良かった~、知り合いいた!」
やっと知っている人間に遭遇し、青年が安心して少し大きな声を出す。その声に門番がゆっくりと顔を向けた。静かな瞳がこちらを向いて「どうして、あんたが?」と言うように不思議そうに瞬いたが、その後に「しーっ」とするように人差し指を口元に一本かざした。

どうやら静かにする場所らしい。青年は悪い、と両手を合わせてから門番へ近寄った。
「どうしてこんなところに?」
門番が至極当然の疑問を投げかかる。
「届け物を持ってきたんだけど、渡せって言われた信一さんの場所が分からなくて
「ほとほと困っていたんだ」と情けない顔をすると、それを見つめた門番はその綺麗な顔をしばし思案させて、フイっとバルコニーの下を向いた。

「?」

釣られて青年も下を見た。門番の隣に肩を並べて覗き込む。バルコニーの下は四角に囲われた小さな中庭であった。広くはないし、特に何があるわけでもない素朴な空間だ。そこに人が1人いた。正確には1人と1匹。彼は青年がずっと探していた龍城第一刀だった。

信一は座り込んでいて、彼に懐くように頭を擦り付けているまっ黒な犬を楽しそうにワシャワシャと撫でていた。飼い犬だろうか、それとも迷い犬だろうか。分からないが子犬と成犬のちょうど間に見える若そうな中型犬だった。シッポを振りちぎらんばかりに左右に激しく動かしている。鳴き声はここまで聞こえてこないが、ずいぶんと信一に懐いているらしい。

「いた!」

青年は喜んだ。あの男に届け物をすれば晴れて自由だ。こんな迷路城からおさらば!

「ここからあそこってどうやって降りるの!?」
俺を案内してくれるよな?最後まで!と、そんな期待も込めて門番を見ると彼はフルフルと首を振った。
「まだしばらく、ここで見てる」
「はい?」
一緒についてきてくれるどころか、下までの道も教えてくれるつもりはないらしい。門番は青年を無視するかのように、下を熱心に覗いて信一を見つめている。どういうことだろうと青年は思った。

「そういやお前、今日仕事しなくていいの?ここで何してんの」
まさか、ずっとここで犬と戯れる自分の上司を見てたの?

「観察してる」
「観察?」
「ここ、あの人たちが集まる穴場で面白いから観察してる」
………あの人たち?」

わけが分からないと青年が隣の端正な顔を見つめていると、門番の澄ましたその表情がピクリと僅かに動いた。青年もまた下に顔を向ける。すると信一と犬のところに新しい人物が現れたのだ。

「あ。若頭」

青年がよく知る人物、十二少であった。届け物を架勢堂に堂々と忘れていった男は単純に砦へ遊びに来たらしい。意気揚々と現れて信一の傍に近寄っていく。信一の方も気安い顔を向けて何か喋った。さすがに中庭とバルコニーは距離が遠いので、何を喋っているのかは全く聞こえなかった。しかし動向くらいであれば確認ができた。十二に挨拶したらしい信一の興味は再び犬の方へと戻ったようだった。

信一の指先が優しく犬の耳や首筋を撫でて犬はうっとりとしている様子だ。犬が鼻先を信一の鼻に押しつけてお礼を言うように甘えている。信一がニッコリと笑い背中の方も撫でてやろうと手を伸ばしていく。

龍城第一刀と呼ばれる九龍城砦のNO2が、とろけるような優しい顔をしていた。青年が数回会った時は、信一は血気盛んな若者たちを統べる隙の無い、どちらかといえばクールでキリっとした様相をしていたのでそのギャップに自然と心がくすぐられる。あの美貌が柔らかい表情を見せると親しみやすさが増すような気がする。なんというか

「お前のとこの上司、怖そうに思ってたけど意外と可愛いんだな」
そんなことを呟いてしまえば、門番がさも当然だというような顔で答える。

「意外でもなんでもないだろ。それにうちの信一兄貴は顔がすこぶるイイ」
発言が控えめな性格なのかと思っていた門番が素直な肯定の言葉を発したので、青年は少しだけ意外に思った。こいつ自分の兄貴のこと大好きじゃん、と思ったと同時に、やっぱり話せばそんなにとっつきにくいヤツでもないんだな、と改めて思い直す。質問をすればちゃんと返事が戻ってくる。門番の言う通り藍信一は実に秀麗な男であった。相当の別嬪というのはそれだけで少し近寄り難く感じるのかもしれない。

「まぁ、確かに……ん?」

一方、不満そうなのは十二の方だった。しばらく信一が犬を撫でているのをご機嫌に眺めていたのだが、それが続くにつれてだんだんと拗ねた顔に変わっていく。しゃがみ込んで自分の左右膝に各肘をのせ、広げる両手のひらに顎をのせてジッと待っていたが、長くほったらかしなのに結局我慢がならなくなったのか、ぐぅと猫目を細めて頬を膨らませると。

俺のことも撫でろと言わんばかりに頭を差し出した。

「ええ~………

いや、たしかにうちの若頭は元気で愛嬌もあってマスコット感あるけど、若いのに仕事も早くて指示も激も飛ばす頼れるタイプの兄貴肌で、いったん戦闘となれば残酷な若い虎としての意面を容赦なく見せてカッコ良くて

あれぇ?と首を傾げた若者は不安な気持ちになる。
「いや若頭それはさすがに
子供っぽすぎて、引かれてしまうのでは。

う、うちの若頭~っ、と謎の親心でハラハラしていると、信一がカラカラと笑って十二の頭をワシャワシャと撫でた。

「信一兄貴も時々、龍兄貴に撫でられる猫に嫉妬して同じことしてるから、大丈夫」
非常に落ち着いた声で門番が言う。
「あ、そうですか

信一が無遠慮に十二の髪を乱すので青年はこの上なく目を丸くさせた。彼の知る若頭は髪をいつもきっちりっと決めており、それを乱されると烈火のごとく怒るというのに。そのイメージを覆して彼の上司はご機嫌にニコニコ笑いながら信一に懐いていた。その顔や触れ合う肌が距離の近さを感じて(それって普通なの!?)とどうにもこちらがドキドキしてしまう。

そのうち隣で良い子に座っていた犬が自分もかまって欲しいと立ち上がり、十二の顔にスリスリと頭を擦り付ける。信一と十二がキャッキャと笑い合いながら犬を一緒に犬を撫ではじめた。

青年は思った。

「え?もしかしなくても俺らの上司、すげぇ可愛くない?」
「プインヤは兄弟感も推せるところだから。幼馴染マウント食らった時に感謝の気持ち芽生えるから」
「ぷいんなんて?感謝??」
「あの感じでちょっとでも十二さんが優勢なちょっかいを信一兄貴出すと、そこから何が始まるのかワクワクする」
「ワクワ...?」

聞いたことのない言葉を耳にし、青年は聞き返した。
しかし相変わらず涼しい顔の門番が、質問には答えずチロリと目玉を動かす。

中庭に違う人物が現れた。

信一や十二よりも年上に見える、やや大柄な男だった。顔にマスクをかぶっている。疲れているのか眠いのか、それともそれが通常であるのか、やや緩慢な動きでのそのそとやってきた。それから犬と戯れている信一と十二のそばに寄っていき、二人の背後に座りこむとおもむろにマスクを外した。傷だらけであるが実に端正である顔が露わになる。やはり彼の目は眠そうであり、そんな男に信一と十二が目を向け、何やら盛んに声をかけている。

信一が何かを話してケラケラと軽快に笑った。それを見つめる傷だらけの男の顔がゆるりと穏やかに和らいだ。彼の瞳が優しく信一を見つめて、腕が真っすぐに伸びていくと、そのまま男の親指と人差し指が信一の額をトンっとはじいた。その非常に軽くて全く痛くはなさそうなフンワリとしたデコピンに、信一が両手で額を抑えて大袈裟に痛がるフリをする。わざとらしく幼げに口と尖らせて甘えたような表情を見せる信一に、隣の十二がハハハと愉快そうに笑った。

「何あれ、あっっっま」
「先生は黒社会へのツンデレやクーデレがなかなか熱いけど」
「それはなに
「ここでは100%デレしかでてこない」
「100%!!」
「ちょっとツンが激しすぎるなとか、2人の掛け違いにハラハラしちゃうなと心にきたら、ここに来ればオアシスと安堵を得られる」

「よぉ、お前。また見てんのか?」
突然背後から声がして、青年は驚いて肩を飛び上がらせた。
「うわっ」
パッと後ろを見れば、信一の部下の中でも側近のようについている男つまりは門番の“先輩”が立っていた。目を引く紫色のジャケットに黄色いストライプのシャツという服装がことのほか目立つので、青年にも見覚えがあったのだ。

一方、先輩の方は青年を見て訝し気な顔をする。しかし彼も記憶にあったのかすぐに陽気な顔を取り戻した。

「ああ、お前、虎兄貴のところに新しく来たやつか」
「ちわっす
「何?仲良く一緒に4少見てんの?」
「4少?」
「あの4人のこと、あれ3人しかいねぇや」

先輩が両手を広げた。それから青年の左肩と門番の右肩にダラリと腕を回した。必然的に反対側の身を寄せている方の肩をくっつかせた新人たちの中央後ろに立ち、その肩越しから首をのぞかせて中庭を見下ろした。その強引さと馴れ馴れしさに驚いて青年は「わっ」と声を上げたが、門番の方は慣れているのか静かに成すがままになっている。

下では気がつけば四仔が右腕を信一に、左腕を十二の腹へと回して自分の方へと引き寄せて捕獲しており、その上で信一のうなじに顔を寄せていた。犬は十二の足に体を寄せてその太ももにポスンッと顎をのせてくつろいでいる。

「何あれ?」
「あれは信一兄貴を先生が吸ってる」
「吸……?」
「信一兄貴吸い。髪とかうなじとかに顔をうずめて思いきりその匂いを吸ってる。よく分からないけど疲れた時にアレをする人たちがいる。反対に信一兄貴がしていることもある。たぶん犬とか猫の匂いを吸うあれに近しいものだと思う」
何それ楽しいの?という疑問が顔に出ていたようで、解説をした門番がさらに言葉を重ねた。

「俺も度々、龍兄貴や三少が吸ってるのみるからどんなものなのか気になった。だから一回俺もやってみようと思って、背後から信一兄貴に抱き着いたことあるけど
「お前……勇気が無限大だな」
「嘘だろ?怖いもの知らずかよ」
「俺ならワンチャン行けるかと思って。信一兄貴、俺にはそんな怒らないし」
俺って信一兄貴の部下の中で末っ子ちゃんなので、と自分で堂々とのたまう門番を、青年と先輩は呆れたような目で見た。青年はそれなら若頭の部下で末っ子の自分は若頭がワンチャン吸えるってこと?と想像してすぐに頭を振る。1秒後には腕を噛みつかれている自分しか想像ができない。怖すぎる。

「でも先生にバレて、頭ひっつかまれて引き離されて、その握力で頭蓋骨割られるかと思った
表情はやはり冷静なままだが心なしか瞳がしょぼん、としたようにも見える門番を先輩が横目にして面白がるように笑った。
「すました顔して実は独占欲バリ強いよな~、先生。でもそういう一面がチラチラ垣間見えると四信キタっってなるよな。

ほら見てみろよ、あの恐ろしい右腕と若頭がまるで借りてきた猫ちゃんだぜ。

先輩に促されて3人の視点はまた下へ戻る。

身体を固定されて身動きが取れず、でも逃げる気もないらしく、まるでお人形のように静かになった彼らの上司たちがぽけーっとしたまま空を見上げた。しばらくすると暇が過ぎたのか、それとも2人の間で眠ってしまった犬の様子と体温に眠気を誘われたのか。そのうちウトウトし始めて四仔に寄りかかったままそのまま入眠する。すると四仔も前方の二人にやや体重を預けるようにして同じようにウトウトしはじめた。

(何あの倒れない支えるバランス感覚、良く寝れるな?)と青年が感心していると、そこに4人目の人物が現れた。

「あ、やっと4少そろったじゃん。お前、あいつ知ってる?陳洛軍っていうんだ」
先輩が指さしてそう言った人物を青年は見覚えがなかった。陳洛軍は固まって昼寝をしている3人を見て、どうしたものかとオロオロしているようだった。

「すごい迷ってる」
「自分がどこに入り込もうか、めちゃくちゃ検討しているな」
「あんだけベッタリしていると、どう気がついてもらえればいいか分からないっすね」

どうするのか注目が集まる。3人の視線を一身に浴びているなど夢にも思わず、陳洛軍は立ち往生していた。

そこに、パチッと信一が目を覚ました。それから陳洛軍を目に入れて、まだ寝ぼけ眼のままに嬉しそうにフニャンと笑う。二本の腕が伸びる。手を伸ばされた陳洛軍が誘われるままに自分の手を渡すと、思いっきりグイっと引っ張られてそのまま信一の腕の中へと飛び込むような形で倒れ込んだ。信一の胸へ思いきり体当たりをするような体制になってしまった洛軍が、慌てたように身を起こそうとする。しかし楽しそうに笑う信一が彼を離さないためバタバタと縺れていた。

その動きに犬が目を覚ました。そして信一と陳洛軍がじゃれて遊んでいると思ったのだろう、興奮して「自分も遊ぶ」と洛軍の背中へと飛び掛かる。これ以上体重が信一にかかってはマズイと地面に手をついて耐えようとする洛軍の頬へ、イタズラが成功したとでもいうように無邪気な笑みをみせる信一が手のひらを添えていた。

青年、門番、先輩は洛軍の様子が気になったが、残念ながら後ろを向いている洛軍の顔は3人には見えなかった。片や、さすがに騒がしくて四仔と十二が起き出し「なんだ来ていたのか」という風に和やかな雰囲気が増していく。

「平和かよ」
「仲良しかよ」
「信一兄貴は洛軍がお気に入りだからなぁ」
「そうなんですか?」
「いや、あいつ凄かったんだよ。砦に来た一日目。信一兄貴との一戦、途中から見てたけどマジで痺れたし。しかも龍兄貴を人質にとってさぁ」
「あの坊主頭が?」
「それでしばらくしたら、あれよあれよという間に信一兄貴に気に入られてて、ずっと3人だった信一兄貴たちの仲間にスッと入っていったんだよな」

「洛信は
門番がポツンと言う。
「洛軍が不思議な男だから。この九龍城砦に突然やってきたくせに、あらゆるものを飛び越えて信一兄貴の気持ちを全て搔っ攫ってく」
「洛信は雰囲気独特だよな。ふとした瞬間にお互いにうっとりしてるもんなぁ。2人の世界入っちゃってるんですか~?俺いますけど~?みたいな。まぁ、十二信も四信も似たようなもんだけど」
うんうん、と頷く九龍城砦の先輩後輩2人を見て、ずっと気になっていたことを青年は問う。

「あのさっきから言ってる十二信とか四信とか、洛信とか何なんです?」
「んん?まぁ~、信一兄貴と誰かが一緒にいる時に“なんかいい雰囲気だな”“なんか見ていて和むな”“これは何かあったなこの2人怪しい”ってことが起きた場合にそのコンビを呼ぶ呼称」
「な、なるほど?」
「このコンビの空気感、好きかもっていう推しコンビを応援する時にも使う」
「推しコンビ応援
「ちなみに本人たちに言うなよ?殺されるぞ」
「え、そんな死の覚悟を持って呼んでるんです?それ」
「殺されるし、それを本人たちが意識して行動が変わったら意味ないだろ?」
「ああ~。門番は推しコンビがいてそれを眺めるのが趣味ってこと?」
「.........どのコンビも良い。同じくらい推す。強いて言えば俺は箱推し...」
「はこ?」
「どの組み合わせでも、4人でも、あの人たちが平和そうに楽しそうにしていると、和む」


それって、つまりこの九龍城砦が平穏で、安全ってことだから。
それがすごく、ホッとする。

ああ、と青年は思った。青年はもう何度目かになる中庭へ視線を降ろす。メンバーが全員揃ったためなのか、何か他に理由があるのか4少はすでにいなくなっていた。

「だからどんどんイチャつけって思う」
「いちゃ...?」

「あ、俺もそろそろ仕事に戻らねぇと」
青年と門番の問答を聞いていた先輩が、2人に回していた肩から手を外し、腕時計を見て慌てたようにそう言った。

「それにしてもさぁ、お前良かったなぁ」
去る前にそう門番に声をかけた。青年と門番が仲良く首を傾げると、先輩が門番に近寄って彼の頭をグシャグシャと無遠慮に撫でた。
「いやさぁ、こいつこの顔の良さに加えて、あんまりお喋りじゃねぇだろ?だから近寄り難さがあるみたいで友達が少なくてさ」
「ちょ、ちょっと……
髪を乱されて、門番がちょっと嫌がるように身を捩る。しかしその割には抵抗が少なく青年には門番が甘んじて受け入れているように見えた。嫌というよりは気恥ずかしいらしい。あのいつでも鉄面皮で表情が涼し気な美青年がやや頬を染めているような気がする。門番の方が背が高いためやろうと思えば回避もできそうだが、膝をちゃんと折っている辺り自分からもその手のひらを受けに行っているようにも見える。

(おお?)と青年は思った。

“なんかいい雰囲気だな”
“なんか見ていて和むな”
“これは何かあったなこの2人怪しい”

つまりこういうこと?
門番先輩?先輩門番?これ順番になんか意味あんのかな?

「こいつの趣味にまで付き合ってくれるようなオトモダチができてくれて俺も先輩として安心だわ~」
ニヤニヤと笑う先輩が揶揄うように言う。ただし、本心ではあるのだろう。青年を見る目は実に好意的だった。面倒見がよく、優しい人なんだろうなと青年は思った。門番はついぞ少しむくれいていた。やはりこの男にしては子供っぽい仕草をしていて青年は意外だなと思った。
「もう、先輩早く仕事戻ってくださいよ」
そういう声音がちょっと甘えを含む。

「まぁ、よろしく頼むわ」
先輩は門番の頭をポンポンと優しく叩くと、同じように青年に近寄ってこちらは肩をポンポンと叩いた。

「それで?最後に聞くけど、お前は何推しなの?」

青年は「え?」と戸惑った後「うーん」と唸った。

「さ……十二信
さすがにここは若頭を推しておきたい。敬愛する上司だし、確かに今中庭にいたような姿は見ていて和むかも、と青年は捻り出す。

「「おお」」
「あと

青年は首を傾げながら目の前の2人を見た。

(先輩門番?)

本人に告げてはならないと先ほど聞いたルールを思い出し、咄嗟に口をつぐんだ青年は誤魔化すようにキラキラとした瞳を2人に向けた。


「いや、良いっすね。推しコンビ活!」


それは晴やかな笑顔であった。